昨日の夜、外で腰掛けながらもの想いにふけっていた 。
12時を過ぎていただろうか。
秋風が涼しく、すこし肌寒さを感じるようになっている。
虫の音色が静かで澄んでいて、短い秋の訪れを知らせていた。
夏が遠ざかっていく。
すべてがぎらぎらと輝いてまぶしい季節。
ボクが生まれた季節。
夏の思い出が鮮明に浮かび上がってくる。
小学生のとき、夏休みにはいつも祖母の富山の家にいった。
ワンボックスの車、後ろの席をぜんぶたおして毛布をしく。
兄とイヌのクロちゃんが一緒にいる。
後ろの席はボクにとって、動く秘密基地のようだった。
夜の高速道路、車の光が流れるとボクらの空間はその光に彩られる。
何とも言えないわくわくした気持ち。
車は、まるで未来の希望に向けて走っているようだった。
思い出して胸がいっぱいになってきた。
ボクが旅に出たいと思う時、きっとあの時の気持ちとつながっているだろう。
さらに、その根っこにはもっと古い思い出がつながっていることに気づく。
ボクと兄が通った保育園。
山のふもとにある自然に囲まれたあの場所。
山のふもとにある自然に囲まれたあの場所。
家からは遠いけど、ボクらのために両親が探してきてくれた。
はじめの数年間だろうか、母がこぐ三輪自転車で通った。
父が改造してくれて、三輪自転車の後ろはボクと兄の特別席になった。
荷台にはふたがついていて、二人は隙間から外の景色を眺められる。
ゆっくり流れる景色がきらきらと輝く。
荷台のゆれが楽しいリズムを刻んでいる。
風が草花の香りを運んでくる。
片道1時間はかかる坂道を、母はボクらを乗せて通ってくれた。
毎日がわくわくする旅のようだった。
親の愛に見守られてすごした幸福。
ボクら兄弟にとって、あの思い出は心の奥深くでいつも光っている。
母と父が背中を押してくれているような安心感がそこにある。
記憶の点と点がつながり、自分が誰なのかがすこしわかったような気がした。
ふと空を見上げると月が光っていた。
下弦の月だ。
月のかげの部分に目が奪われる。
月のかげは地球のかげのはず。
けれど想像と違うかたちだ。
月の円に地球の円が重なるようになっているはずだが。
今宵の月のかげはほぼ一直線に見える。
しばらく見ていると、ふと気づく。
ああ、あの一直線に見えるかげはおおきなかげの一部だったんだ。
空にうかぶ月。
そのかげの輪郭がのびていき、おおきな丸いかげが見えてきた。
「地球船に乗っている!」
かげは自分が座っているこの地球の存在を浮かび上がらせた。
空に描かれた地球のかげは想像以上に大きく弧を描いていた。
圧倒的な存在感が少しの恐怖を感じさせる。
けれど、しばらく見ていると逆に大きな安心感が湧いてきた。
さっき思い出していた記憶と急につながる。
ああ、地球という大きな存在がいつも見守っていてくれている。
月に向かう自分の背中を、大きな大きな地球が支えてくれているんだ。
父と母に守られたあの幸福、もっと大きな地球にも守られているんだ。
父と母に守られたあの幸福、もっと大きな地球にも守られているんだ。
脳が勝手に変な回路をつなげてしまったのかもしれない。
けれど、この大きな安心感はボクをとても幸福な気持ちにしてくれた。